デビュー作がヒットし小説家の道を歩く1人の男。
しかしデビュー作以降は鳴かず飛ばずの状態が続き、世間からは忘れられた存在になっていた。
「君の書く作品にはリアリティがないんだよ。もっと読者に寄り添ってさ…」
デビュー作のヒットで会社の窮地を救ったにも関わらず、今ではそんな恩を売った編集長にすらコケ下ろされてしまう。
その夜、愚痴を聞いてくれていた妻がとある提案をした。
「サスペンスを書いてみれば?」
今まで書いたことのないジャンル。妻の突飛な提案は到底受け入れ難かった。しかしでは他に良案はあるのか?今までの作品は自身の経験を元に作り上げてきた。当然殺人なんて犯したことはない。
そうして頭を抱えていると、1本の連絡が入った。
「サスペンスを書く先生に、是非私の経験した話を聞いて欲しい」と。
怪しげな連絡ではあったが自分にはもう後がなかった。その連絡をしてきた者を、喫茶店で待つ。そして暫くすると、喫茶店に1人の男が入ってきた。ハットを目深に被り、目元ははっきりと見えない。
その男は話し始める。
3人の男の数奇な運命を。
そしてこれは──────
────「あなたの物語」であると。
ということでまたまた素人の書くあらすじから始まりました。今回は現在公開中の映画「パラフィリア・サークル」をご紹介します。
ストーリーはオムニバスに近い流れではあるものの、ちゃんとそれぞれがリアルタイムに繋がっていっている作品です。なのでオムニバス苦手な私でも楽しんで観ることが出来ました。しかもその1本のラインが、とても複雑で、結び方が物語のインパクトに反して非常に綺麗。昨今物語の旋律なんて気にしてないだろ!みたいな(ゴミ)作品も多いので、閾値低めな私はこの物語の旋律の美しさにまず感動しました、笑。
ATTENTION!!
以下致命的では無いものの、それなりのネタバレを含みますので*1、既に鑑賞予定の方は回れ右で。鑑賞を迷われている方、ここで初めて作品の存在を知った方の、少しでも後押しになったら幸せです。
尚なるべく除外しているつもりですが、私個人の解釈が含まれている可能性があります。また記憶の限りで書いているので、様々実際との相違がある可能性もあります。「これちゃうやろ!」と思ったら、ハッシュタグつけてふせったーなり何なりにぶん投げてください!読みます!盛り上げて界隈を!
では早速!
冒頭に書いた通り、主人公の玉川健斗(演: ⽟城裕規)は1人の怪しい男に、新作を作るヒントになればと喫茶店で出会います。映画はまず自らを「魂の狩人」と名乗る、その男が語る物語から始まっていきます。
chapter1 究極のマゾヒスト*2
優秀な弁護士である粟野宗一(演:縣豪紀)は、令嬢である菱井美香(演:吹越ともみ)との結婚を控えていた。仕事は多忙を極めていたが、優秀で優しい彼は、社会的弱者の依頼人にも優しく声をかけて寄り添っていた…薄らと恍惚な表情を浮かべながら。
─彼には職場にも婚約者にも言えない秘密があった。それは婚約者の他に、1人のパートナーがいること。そのパートナーは男であり、究極のマゾヒストであること。夜な夜なそのパートナーである森瀬京(演:瀬戸啓太)に暴力を加え、傷をつけていること。そして京はいつもそれを、苦悶と恍惚の入り混じる表情で受け止めていた。
しかしその歪で純粋な関係も突如終わりを迎える。きっかけを巧妙に作り、相手を切捨てたのは他でもない京だった。
「君の暴力は退屈だ。アイディアがない。」
縋る宗一を切り捨て、立ち去ろうとする京。それを宗一はただ見つめるしかできなかった。弱者へ向けた時と同じ、恍惚の表情で…。
京は「慰謝料」で大金を手にし、大学にも行かず、夜な夜な暴力という快楽を求めていく。しかし何処を探し求めても、自分が求める「被虐」を得られず、言葉にできない苛立ちを募らせていった。
彼が究極のマゾヒストであることなんて知る由もない大学の後輩・岸田瞳(演:園田あいか)は、入学時の些細なきっかけから、強く彼を慕っていた。献身的に尽くす瞳。京はそれを邪険に扱うものの完全に拒否ができないでいた。
「人を好きになることなんて、ヒヨコの刷り込みみたいなもんっすよ」
京はその後、風の噂で耳にした宗一のその後の運命を知ることになる。いくら探し求めても得られない快楽。自暴自棄になる自分が何を求めていたのか、どうして求めるものが得られないのか。 京はその理由に気づいていた。気づいていたが目を逸らし続けていた。変わっていく自分が受け入れられなかった。
そして瞳の前で打ち明ける。
真実と、決断を。
このチャプターはインパクト(マゾヒスト、暴力表現等)が相当大きくて、初見ではそこに目が向きがちです。絶対自分とはかけ離れ過ぎて、感情移入はできないだろうと思いがち。でもそのインパクトを押し退けた先に見える、登場人物たちの心情の機微に触れると切なくて死ぬ(語彙力も死ぬ)。歪んだ関係性に包まれた純粋さ。これまでにいろんな変化(自分自身・環境等)を体験してきた大人にこそぶっ刺さるchapterだと思います。
chapter2 初めての殺人
ごく普通のサラリーマンである佐川貴史(演:川上将大)もまた、職場の同僚でもある鈴村早希(演:鈴木聖奈)と誰もが羨む交際を続け、公私共に順風満帆な道を歩んでいた。しかしそんな彼には、誰にも言えない癖(へき)があった。それは「人を殺すことに快楽を感じる」ということ。しかし一般社会で生きている彼は当然殺人を犯すことは出来ず、夜な夜なスプラッター映画を見ながら、欲を吐き出す日々を過ごしていた。
そんな折、彼の元に1本の連絡が入る。
「誰かに殺されたい」
一瞬理性と戦ったものの、願ってもない申し出である。彼はその申し出を受け入れ、待ち合わせをした。そこに現れた人物は──。
─その後も彼に「殺されたい」と申し出る人間は後を絶たない。偶然そんな婚約者と依頼人の待ち合わせ現場を目撃した早希は、後をつけることにした。彼女がそこで見たものは、運命は。
それは新たな「始まり」だった。
このchapterは観てて個人的にはかなりSAN値削られました。彼もまた、己の特殊な快楽を求めて進んでいきます。これ以上ネタバレなしに語るのは難しいのですが、人物間の対比であったり、物語を繋ぐハブとなる、重要なエピソードです。
chapter3 表裏一体
場面は冒頭の小説家と怪しい男の居る喫茶店に戻る。一通り話を終え、男は喫茶店を後にする。玉川に意味深な言葉を残して。
玉川は帰宅後、食事も摂らずに筆を取った*3。一心不乱に書き進めていたところで、彼は部屋の隅にふと違和感を覚える。棚の前に滴る血溜まり。その棚を開けるとそこには、男の死体が詰まっていた。
身に覚えの全くない彼は動転し、慌てて妻のいるリビングに駆け出す。リビングのドアを開け放つと、そこに広がった光景は────。
幾多の物語が絡み合う。
裏が表で、表が裏。
どちらが表で、どちらが裏か。
そもそも選ぶことに意味はあるのか。
裏は表で、表は裏なのだから。
何度も言うように
これは「あなたの物語」である。
このchapterはさすがに触りしか言えん!笑。恐らくまだ観てない方でこの説明を読むと「フッ、読めたぜこの後の展開。」って、思うことでしょう!私も初見で騙されましたから!残念!!本当になかなか想像し難い(ただし納得はする)展開になると思います。そしてラストの結末含め、様々なシーンで初見と2回目以降の解釈は変わっていくと思います。このchapterはとにかく玉城さんのお芝居が解析度めちゃ高でした。圧巻。
どうでもいい個人的まとめの前に、上映中の劇場等をご案内!(2023.7.4時点)
池袋HUMAXシネマズ(東京)
現在上映中 ~7/6(木)まで
https://www.humax-cinema.co.jp/ikebukuro/横浜シネマ ジャック&ベティ(神奈川)
上映期間終了シネマスコーレ(愛知)
現在上映中 ~7/7(金)まで
http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/home.htmシネマート心斎橋(大阪)
現在上映中 ~7/6(木)まで
https://www.cinemart.co.jp/theater/shinsaibashi/movie/001704.html京都みなみ会館(京都)
現在上映中 ~7/13(木)まで
https://kyoto-minamikaikan.jp/movie/25452/元町映画館(兵庫)
現在上映中 ~7/7(金)まで
https://www.motoei.comその他最新情報は映画公式サイト、またはTwitterよりご確認ください。
公式サイト 映画 パラフィリア・サークル
公式Twitter https://twitter.com/paraphilia_cir?s=21&t=S5DbX9lD1HOkinjWerp_WQ
我が地元北海道でも上映してほしすぎて、自力で呼ぶにはどうすればいいか昨日真剣に調べてました。2ヶ所いけるか?って所あったんですが、最有力候補は1年前から予約抑えないと無理だし、もう1つ*4は利用規約が見つからないのでたぶん役所に凸らんと無理。しゅん。
監督はこの映画を作るに辺り、狂気と出演者の格好良さ(可愛さ)のバランスに注意していた、と仰っておりました。このバランスが本当に見事でした。観る人によってはギリギリアウトでは?と思う所もあるかもしれませんが、私的には瀬戸くんのサイコ芝居大好きなので全然問題ない*5。サイコな役の中にも感情の機微な揺れ動きを丁寧に演じ、ごく普通の大学生である側面や、切なさを受け取りました。いやー、最初絶対観るつもりなかったのに*6、今回に関してはおもろかったー。くそー。観に行ってよかったー。
映倫でPG12とされていますが、私的にはR15じゃね?って思うくらいには刺激のある作品になっています。従って観る人を選ぶ作品でもあると思います。SAN値削られます。小規模映画なので大衆映画にも劣るところはあります*7。
でも若手俳優ってキラキラかっこいいだけじゃないんですよ。キラキラかっこいいだけなら、モデルでもホストでもアイドルでもできるんですよ。でも、俳優なので。彼らが俳優だからこそ魅せることができる狂気と人間模様。現実と非現実が絡み合い混じりゆくストーリー。
是非より沢山の方が作品に触れて、その心に消えない爪痕を残しますように。
なんかYouTubeの映画レビューみたいな動画をイメージして文章化したら、長すぎてもう読ませる気がない文章になってて草。あと1~2週間くらい公開しててくれればなぁ、動画作れる(と思う)のになぁ。